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2024/05/31 09:00

前回よりお届けしている岡山県倉敷市の田邉さんの桃。
今回は「岡山産」のブランドを確立する芸術的な栽培方法「袋かけ」と、自然とどこまでも共生する「草生栽培」についてお伺いしました。

―桃といえば山梨産や福島産も多いですが、岡山産にしかない特徴はありますか?
「岡山産の一番の特徴は、徹底した袋かけです。
桃が日焼けして果実が赤黒くならないように徹底して袋をかける栽培方法が「岡山白桃のブランド」として確立しています。
袋をかけて育てると、真っ白く美しい見た目に仕上がるだけでなく、キメの細かい、舌触りの良い柔らかい果実になります。
例えば、清水白桃の真っ白な部分と下の部分にだけほんのり紅がさす、格別に美しいグラデーション。
これは下が開いた袋をかけることで、遮光しながらも程よい太陽光が当たり細やかな着色がなされます。黄桃系などにおいては遮光度を高めるために二重袋をかけないと黄色の桃には仕上がりません。
このように品種ごとに材質・遮光率・形状の違う袋を選んでかけています。」

―すごい徹底ぶりですね。全ての桃におひとりで袋をかけていくのですか?」
「もちろん全ての桃にかけています。ある短期間の間に何万個とある桃の全てにひとつひとつ手作業で袋をかけるのは、なかなか常軌を逸した行動ですよね(笑)」

―本当にびっくりします。岡山の桃農家さん、皆さんこの徹底ぶりなのでしょうか?
「岡山の桃農家さんは皆この袋かけを徹底しています。岡山県民が勤勉なのかは分かりませんが、職人気質の人が多いんでしょうね。真似したくてもここまでの徹底した袋かけ作業はとてもじゃないけどできないと他県の人から言われたことがあります。」

すべては「生きた土壌と微生物」ありき


「超弱剪定」「樹上熟成」「徹底した袋かけ」。これらのこだわりの栽培は、まず土台である土が何よりも大事なのだそうです。

―田邉さんは、はじめた当初から「草生栽培」を行っているそうですが、どのような栽培方法なのですか?

「畑の中に循環と共存を生み出すのが「草生栽培」です。土は、見た目では同じように見えますが、生き生きとしている土、痩せた土では全然違います。生きた土の中では絶えず有機物が循環し、たくさんの命がうごめく世界が広がっています。循環は微生物がいないと成り立ちません。草生栽培により、虫や菌類・微生物が集まり、定期的にその草を刈り込むことでそれがまた彼らのエサとなり、分解され、土へと還ります。
目には見えませんが、草生栽培は一番重要な分解者の役割となる微生物や菌類を間接的に育てているのです。
もし除草剤を使い草を枯らしてしまうと、雨が降れば土は流れ養分も一緒に流亡してしまいます。エサとなる有機物がなくなると微生物も数を減らし、地力はさらに低下し、結果的に化学肥料に頼らざるを得ない状況…という悪循環に陥ってしまいます。それほど、土の中にある命の存在が大きいといえます。」

―また、草生栽培によって生えてくる雑草の種類や生育状態から、桃の樹の健康状態がわかるのだそうですが、具体的にどんなところを見てどのように判断されているのでしょうか?

「例えば桃の樹が弱っているのに株元の雑草が勢い良く生育していたとしたら、肥料分の問題ではなく乾燥や湿害、pHの問題で樹の根が傷み、養分が吸えていないのではと考えます。樹が弱っているからといってこの状態でむやみに肥料をやったりすると、間違った判断を下すことになります。桃のまわりの雑草に目を配ることがとても重要です。
さらには、集まってくる虫からもメッセージがあったり助けられたりしています。草に集まってくるテントウムシやカゲロウは、桃を食害するアブラムシやカイガラムシにとっては天敵で、益虫として働いてくれます。ミツバチやアブは桃の花粉を媒介し授粉を手伝ってくれる役割があります。越冬昆虫の一部は霜被害が出やすい場所には巣をつくらないので凍害エリアを教えてくれます。
草やそれに集まる虫たちが、桃の健康状態や置かれている環境を知るための重要な指標となってくれているのです。
また、肥料は入れすぎるとN(窒素)が過剰になり、樹が暴れて栄養成長と生殖成長のスイッチをコントロールしにくくなるので、最低限にとどめています。草生栽培で微生物を育て、生きた土壌をつくり循環させると、団粒化して土がフカフカになります。フカフカになった土にはミミズが増え、モグラがやってきます。彼らもまた、畑を耕してくれる貴重なスタッフでもあるんです。
排水性と通気性の良くなった土壌には病気や害虫が発生しにくくなるので桃の樹も健康に生育できます。
樹の力を最大限に引き出した樹上熟成での栽培にはこの生きた土壌が何より重要。核を占めているのです。



自然から学び、創生することを理念に、手間やコストがかかっても自分や家族が喜んで食べたいと思うような農作物を、誠心誠意を込めて育てています。今はまだ収支赤字の苦しい途上にいますが、誰よりも美味しい桃をつくって、食べた人のほっぺたを落とし、たくさん人を笑顔にしたいです。」

土、草、樹、虫、生き物たち。自然と対峙し、自然からのかすかな声へも耳を傾け、対話する感性を本当に大事にされている田邉さん。
ちょうど今頃は、余分な蕾や花を摘み、花のひとつひとつへ授粉をしているところだと思います。地道で、でもとても芸術的で美しい作業です。
食の和・人の和プロジェクトでは、田邉さんのような新規就農者を応援しています。
未来や環境に配慮した質の高い農作物を作る生産者とお客様との間に心通うあたたかな出会い・つながりと、本当の意味での豊かな「食」を実現していきたいと考えています。




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