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2023/03/28 22:58



今では当たり前となった「SDGs」「サスティナブル」「オーガニック」「循環型農業」といった言葉。

その30年以上も前から、化学肥料や農薬の使用を最低限に抑えて、自然環境にダメージを与えずに安心安全で美味しい野菜を栽培されている、北野さんの有機野菜を取り扱わせていただくことになりました。

有機JAS認定農場である北野さんよりインタビューでお伺いしたお話を、全3回に分けてお届けしていきます。

第1回目、まずは北野さんがいらっしゃる宮崎県東諸県郡綾町についてご紹介します。

2012年に日本では32年振り、5カ所目となる「ユネスコエコパーク」に登録されました。

ユネスコエコパーク(正式名称「生物圏保存地域」)とは、世界遺産で知られるユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の認定制度のひとつです。豊かな生態系や生物多様性を保全し、自然に学ぶとともに、文化的にも経済・社会的にも持続可能な発展を目指す、地域づくりのモデルとして高く評価されたエリアがユネスコエコパークとして認定されます。現在、世界134ヵ国738地域が認定され、日本国内では綾町含め、10地域が登録されています(2022年6月現在)。これらの10地域は日本ユネスコエコパークネットワーク(JBRN)を構成し、交流や学びあいを通じて、各地域の質向上に努めています。



そんなユネスコ認定地域に綾町が登録された大きな理由とはなんだったのでしょうか。
それは町の大部分を占める「照葉樹林」と呼ばれる広大な森があるということ。その面積2000万㎡(東京ドーム約425個分)!
森でカシやシイなどの大木、ヤブツバキやサザンカといった低木が新鮮な空気や豊かな水を生み出し、イノシシ・ニホンシカ・ヤマセミなど多様な生物が生息していることが一番の理由として挙げられます。
森林開発が進むなか、照葉樹林がこれだけ広大な面積でまとまって残っているのは世界的にも珍しく、大変貴重なものだということです。

なぜこれだけの照葉樹林が残っているのか?
その理由は、半世紀以上にわたって綾町が町ぐるみで「自然と共生した地域づくり」を行ってきたから。
しかし、はじめから綾町に自然との共生が根付いていたかというと、まったく違う状況でした。
もともと綾町は7,000人ほどの小さな町で、主力産業は林業でした。今では誇り高き照葉樹林が、町民の雇用を確保するために伐採される危機があったのです。
しかし、町の人たちは未来の子どもたちに綾の自然を残す道を選択しました。
そして「山では人間が手を加えなくても、植物が生えてくる。その背景には山の土や生き物にあるはずだ」と考え、土づくりや鳥や虫を大切にする農業に舵を切っていきます。

しかし、当時の農耕面積はわずかなうえ、土がやせていて、米も野菜も収穫量は他の地域の半分以下。野菜等は主に隣の宮崎市から買っているほどの状況からの船出となりました。
まず始まったのは、有機肥料を使った土づくりです。牛と馬の糞尿と土を混ぜて発酵させ、さらにそれを山の腐葉土と混ぜて農地にかえしていきます。農薬や化学肥料は極力使わない。「自然生態系農業」という名ではじまりました。

当時の日本は、いわゆる大量生産が求められる時代で反対意見もありました。
農業も大規模農業を奨励され、農薬や化学肥料を使うのが当たり前の中で、「有機栽培」や「無農薬栽培」を徹底することへの抵抗感は大きかったようです。生活に関わる問題なので不安も大きかったのでしょう。
ただ、当時の町長には強い信念がありました。
まずは「一坪菜園」を推奨し、各家庭で自給作物を栽培しようというという取り組みを行い、「牛一頭が賞品!」というユニークな家庭菜園コンクールを企画するなど、町民に興味を持ってもらえるよう、一歩一歩働きかけていったのです。
農家が農薬を使わずに栽培することによる収穫量不安定化へのリスクに対して保証制度を設定するなど、大胆な取り組みにより、少しずつ少しずつ町民の意識が変わります。
「健康な土を作れば、健康な野菜ができ、それが人間の健康につながる。」
綾町は林業の町から農業の町へと変わっていったのです。
1976年に自宅で食べきれない農産物を売る「青空市場」、翌年に農業の指導や販路拡大を担う「綾町農業指導センター」が設けられます。
そして1988年に全国ではじめて「自然生態系農業の推進に関する条例」を制定し、農薬や化学肥料を使わない有機農業を推し進めてきました。
綾町は町ぐるみで有機栽培をはじめ、40年以上かけて土・農法を受け継いできたという歴史ある唯一無二の存在です。

さらに2001年には、全国の市町村で初めて有機JAS登録認証機関の登録を受け、全国に向けて有機農産物の出荷も始めました。

ここまで、40年。この歴史が他に例のない大きな強みとなっていて、現在の有機農業の町「綾」となったのです。
自治体としては日本初の有機認証機関にもなり、日本で「有機農産物」の規格を定める有機JASは、綾町の認証システムを大いに参考にしているそうです。
40年間徹底して「栽培期間中の農薬・化学肥料不使用」を受け継いできた唯一無二の土が、ここ綾町には息づいています。
必然的に土の中に生きる微生物が強く、多様性も高めながら増え、炭素・ミネラルも豊富な肥沃な土壌が実現しているのです。

本当に美味しい、本当に安心な野菜には不可欠なこの土について、次回詳しくお伝えしていきたいと思います。




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